魔石グルメ カティマ。 アパレシダ クライマテポ フロリアポリス

このライトノベルがすごい!2020、掲載記念SS|俺2号/結城 涼の活動報告

魔石グルメ カティマ

遅れてきたハロウィンSS 2019年 11月01日 金 22:48 一時間前に思いついたのを流れのまま書いたものとなります。 活動報告に乗せたのは、あの話の後にこれを乗せても流れが……と思ったからです。 例によってこういう閑話、SSは時系列など細かい部分は気にしないでいただければと……。 それでは、どうぞご覧ください。 +++++++++++++++++++++++++++++ 「イけるニャ」 と、カティマが鏡を前にそう言った。 いつもながら雑多に物が散らかる地下の研究室に、なぜか今日は大きな鏡が置かれている。 「あのさ、意味わかんないんだけど」 その言葉を聞いてカティマが振り返った。 「アインは何が不満なのかニャ」 「いや不満なんじゃなくて……仮装するって聞いたし、俺も楽しそうって答えた。 けどさ、カティマさんのそれは仮装じゃない」 「どこをどう見ても仮装ニャろッ!」 「悪いけど、ケットシーのカティマさんが猫の着ぐるみを着ても訳が分からないだけだから。 それも無駄に派手な色でよくわかんないし」 「はぁー……」 分かってないな、肩をすくめて首を左右に振ったカティマ。 当然だがその仕草がアインを逆なでし、彼は思わず額に青筋を浮かべたくなるほどイラっとしていた。 けどここで怒ってもカティマの思うつぼ。 ひとまず胸に手を置いて、落ち着きを取り戻した。 「俺はほら、こういう格好だから仮装っちゃ仮装だけど」 一方のアインの服装は、執事が着るような燕尾服だった。 それを着こなし、凛とした姿で立っている。 目の前のカラフルな猫とは大違いだ。 「まぁ聞くにゃ。 これは私という個人を隠すことにもなるのニャ」 「まったく欠片も隠れてないけど」 「いつもの理知的な一面が隠れてるニャろ?」 「元から無いものは隠せないと思う」 ところで、何故隠すのかが不明だ。 「お菓子をくれなきゃ悪戯するってだけなんだし、別に隠す必要はないんじゃない?」 「そんなつまらないことをする気はないニャ」 「……まさか」 「お菓子をくれなかったら悪戯するニャ。 でもお菓子をくれても悪戯するニャ」 「うわぁ……最低な王女だ」 「同じ日常ばかりおくってる皆への、私からのプレゼントってとこかニャ?」 「喜ばれないプレゼントほど無価値なものはないよね」 直接的な皮肉を意に介さず、カティマは鏡の前から歩き出した。 地上階へつづく扉の前にやってくると、器用にドアノブに手を掛ける。 「というわけで、私が捕まらないように手伝うニャ」 「嫌だよ」 「シュトロムの研究所の件は誰が口利きしてあげたと思うニャ?」 アインは大きく大きくため息をついて、仕方なそうに「分かったよ」と返した。 隣を歩くアインの服装もだが、もはやただの異物のように目立っていた。 そんな二人が一番に足を運んだのは、シルヴァードの私室だ。 窓の外から差し込む昼下がりの穏やかな光を浴びながら、二人は室内に足を踏み入れる。 「違うのニャッ! 今日はお菓子を貰いに練り歩く日なのニャッ!」 「お、おお……それであったか。 ついにカティマがただの猫になったのかと思うてな」 (お爺様、普段どんなこと考えてるんだろ) 「お主のことだから来ると思っていた。 用意してあるから持っていってよいぞ」 「さっすがお父様なのニャッ! じゃあ早速」 カティマはシルヴァードから菓子を受け取ると、唐突に懐を漁りだした。 すでに共犯のアインからすれば、今からでも止めるべきだという気持ちと板挟みになる。 とは言え大したことはしないだろうと思い、彼女のことを止めなかった。 すると。 「Trick but Treat だニャッ!」 小さなボールを力強く床にぶつけた。 砕け散ったボールからは真っ白な煙が生じて、シルヴァードが思わず咳き込んだ。 「カ、カティマッ! 菓子をやったというのに悪戯とはッ!」 「ッ……お爺様、ヒゲが……」 ヒゲが緑色になっている。 さすがのアインもここまでするとは思っておらず、カティマを「大丈夫なの?」と見た。 すると彼女は答える前にアインの背に乗り。 「一時間もすれば元通りだニャッ! ニャーッハッハッハッハァッ! さぁーアイン! 急いで逃げるのニャッ!」 「え、ちょっ……」 「アインッ! お主も共犯であったかッ!」 「いや、ちがッ! 違くないけど……あーもうっ!」 こうなってしまっては一蓮托生。 アインは勢いよく駆け出して部屋を出ると、目の前に見えた窓に向かう。 すぐさまシルヴァードも部屋を出て口を開く。 「ロイドォッ! アインとカティマの二人を捕まえよッ!」 「ふむ、お父様も本気だニャ」 「落ち着いてる場合じゃないって……捕まっててよ」 そう言って窓を開けたアインは、勢いよく外に飛び出す。 宙に浮き、地上に向かう最中にカティマが笑いながら言う。 「教えてやるニャ。 こういう遊びで敵に回したら駄目な人が居るのニャ」 「誰のこと!」 「お母様とマーサだニャ」 「……納得だ」 「というわけで……悪戯はこれからだニャ。 ムフフ……城を混沌の渦に落としてやるニャッ!」 訳の分からない気迫を込めたカティマに苦笑して、アインは着地の準備に移った。 過去最凶と言っていいほど、手の付けられない存在と言っても過言ではない。 日の入りの早い近頃では、もうすでに辺りが暗くなっている。 城内では今でも二人を捜索するロイドや騎士で慌ただしい。 しかし、この状況もたまには悪くない。 そう思っていたシルヴァード。 「あのお二人がいるといつも賑やかですな」 「余もそう思う。 してロイド、二人の行方は?」 「……十数分前を境に忽然と姿が消えました。 外に出たご様子はないのですが、どこを探してもいらっしゃらないようで」 「はぁ……今度は何を企んでおるのだろうか……して、お主の髪の色はどうなっておる?」 「陛下のヒゲと同じく、カティマ様にしてやられました」 今のロイドの髪の毛は真っ赤だ。 真夏の日差しにあてられた瑞々しいトマトのように赤くて目を引く。 二人がいた部屋の扉がノックされた。 「失礼いたします」 現れたのはウォーレンで、彼のヒゲはまっ黄色に染まっている。 そこにはクローネやクリス、そしてオリビアの姿もあった。 皆が上を見上げると、屋根の頂点に二人の姿がある。 「私に悪戯された哀れな者たちのように、この城も染め上げようと思ったのニャッ! でもそんなことをしたら本気で怒られそうだからやめたのニャッ!」 「……賢明であるな」 「ニャけどッ! 私はまだあきらめていないのニャァアアアアッ!」 するとカティマにバシッ! と背中を叩かれたアインが何かのスイッチを持つ。 押下され、何が起こるのだと皆が警戒する。 「私の半年の準備を目に焼き付けるニャァアアアアアアッ!」 何を半年も準備していたんだ。 皆の疑問に答えるように、魔石砲を放つのと同じぐらいの轟音が響く。 何回も、何か所からも鳴って辺りに響いた。 一同が驚くのと同時に。 「…………お姉さまらしいですね」 オリビアが呟くと。 「もう、アインも知ってたのかしら」 「キレイ……です」 クローネがつづき、最後にクリスが呟いた。 皆が目にしたのは色とりどりの花火だ。 城全体どころか、王都そのものを包み込めそうなほどの規模で周囲に舞い上がった盛大な花火だ。 これにはシルヴァードたちも毒気を抜かれてしまい、互いに笑いあう。 やがて一際大きな爆発音。 すると城の裏手から舞い上がった巨大な火の玉があった。 勢いよく爆ぜたそれは、巨大なカティマの似顔絵を模したのだ。 「さて、ウォーレンも共犯のようだな」 「どうしてそう思われたのですか? このロイドにも教えていただきたく」 「これほど大規模な花火なら、さすがのカティマも無断では行わぬ。 となれば報告をウォーレンにしていると思うのだが、どうだ?」 「ふむ……さすが陛下、ご賢察でございます」 「まったく、この狸め」 「恐れながら私は」 「狐であろう? どちらでもよいわ……やれやれ」 花火はそれからも長い時間、王都の夜を彩った。 城下町の民も笑みをこぼしたこの日の夜は、カティマの高笑いで幕を下ろしたのだった。

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ディガンの魔石とは

魔石グルメ カティマ

「マザコンで魔石食う暗黒騎士なんていうゲテモノはアインだけニャ!」 唐突に言われた一言に、何とも言えない苛立ちを覚えたが、アインはそれをなんとかギリギリで抑え込めた。 「いきなり何言ってんのカティマさん」 カティマの研究室。 そこで二人はいつもの研究という名の物騒な開発を行っていた。 今日のメインは、アインが30万Gで購入してきた謎の魔石。 「人を呪う魔石なんて聞いてたら、同じようなゲテモノが居たニャと思ったのニャ」 「喧嘩売ってんのかお前」 カティマはアインが居ない間も資料となりそうな書物や、過去の事例を読み漁っていたものの、今だ何の魔石なのか見つけられていない。 そのせいで若干ストレスが溜まっていた。 「よく考えたら同年代の友達もいなかったニャ。 マザコンで魔石食うボッチな暗黒騎士に変……痛いニャ!痛いニャアアアアア!!」 いい加減我慢ならないアインがカティマの耳を左右にひっぱる。 駄猫への教育と思えば心が痛くなることはない。 「別に一人はいるからいいんだよ。 ボッチじゃねえし」 「誰ニャ。 言ってみるニャ」 「……クローネっていう友達が一人いるから、だからセーフ」 「どこにいるニャ」 「もうすぐ船に乗ってイシュタリカに来る」 「あぁ~ハイムからのお客さんニャ。 じゃあ今ボッチなのは……だから痛いニャ!ニャアアアアア!」 懲りないカティマが悪いが、アインとしても若干このやり取りを楽しんでいた。 結局のところ、友人がいないアインにとっては楽しい時間なのだ。 彼の本意であるかないかは別問題だが。 「そろそろ続き始めようよ。 こんな馬鹿な事してないで」 「く……くぅ、痛かったニャ……」 「結局なんの魔石かまだ分からないんだよね」 「一つだけわかったことはあるニャよ」 「えっ?何それ聞いてないよ俺」 ちょっとしたドヤ顔を披露し、一つ分かったことがあると話した。 「この魔石は最低でも、デュラハンの魔石と同世代か、あるいはそれ以上前の産物ニャ」 「ならその世代の資料を漁ってしまえば」 「それだけじゃないニャ。 デュラハンと同じくらいの強さがある魔物ニャ。 ニャからそんな魔石の資料なんてないニャ。 そもそも謁見の間にある魔王の魔石だって、詳しくわかってないニャ。 あれ?強さについても分かったなら、分かったことは2つだニャ」 それほど過去の産物とは思ってもいなかった。 そしてデュラハンと同程度であり、資料がない魔石と聞いてはちょっとウキウキするアインだが。 やはり呪いの件が気になって仕方がない。 「結局魔石の呪いってなんなんだろうな」 「……いっそのこと、もう吸ってみるかニャ?」 カティマの提案は、アインとしても検討したことがある事実だ。 別に毒は通用しないのだ、そう考えていたものの。 じゃあ呪いは?となってしまう。 呪いは少なくとも毒とは思えない。 その結果自分の体に何かあったらと考えると躊躇ってしまう。 「やっぱり呪いがネックかな。 毒だけなら怖くないんだけど」 「ニャア。 吸った瞬間呪い殺されるなんてことは」 「さすがにないだろうけどさ」 「デュラハンクラスの魔物が、生きてた頃の呪いを使えたら余裕ニャ」 「って結局ダメじゃねえか!」 いくら毒素分解EXとはいえ、アインは特別毒以外に強い耐性があるわけでもなく、ある種のチートがあるわけでもない。 それこそ呪いなんて、抵抗があるわけでもなければあっさりとやられてしまうと思われた。 「アイン。 この魔石の前の持ち主たちは、封印されてない状況で保有してたんだよニャ?」 「マジョリカさんがそう言ってたような」 「ふむ。 ニャらいっそのこと箱から出してみるニャ」 カティマの案は、一度取り出して近くに置いてみようという話だった。 今まで呪われた者達は、変な夢を見たと言うだけで決して死んではいないはずだったからこその、力技だ。 「ここで?カティマさんがいるとこで?」 「そんな楽しそうなことするのに、のけ者にはさせないニャ」 肝が据わりすぎているカティマに若干引いたものの、それぐらいなら……とアインは覚悟を決めた。 そして封印のケースに手を伸ばす。 「いやちょっと待て。 呪いが城の人とかにも影響したら危ないだろ、開けるとこだったあぶねぇ」 「この研究室からは出られないニャ。 この研究室は、少なくともその封印のケースよりも厳重な封印加工をしてる特別製だから大丈夫ニャ」 「あ、はい」 いらぬ心配だったようで、再度ケースに手を伸ばす。 カティマが研究に金をかけているのは理解していたが、まさか研究室に呪い対策まで施しているとは思ってもみなかったのだ。 「とりあえずケースを開けて魔石を取り出すニャ。 まだ触れたら駄目だニャ」 そう言われ、手を伸ばしていたケースを解放する。 『……』 「やっぱり。 なんか呼吸してるというか魔石から気配を感じる」 「私は感じないニャ。 どんな気配ニャ?」 「気が付いてほしそうな、そんな気配かな。 マジョリカさんの店でも封印されてたのに、なんか気配を感じたんだよね。 研究室では感じられなかったけど」 「ここの呪い対策とかが優秀だったからだと予想するニャ」 筋は通っていた。 そしてカティマが言っていた、研究室に施されている呪い対策加工の強さも実感できた。 「気が付いてほしそうな気配ニャー……それってもう、アインが取りつかれてるんじゃ……」 「不吉なことは言わないで欲しいんですがね」 「でも説明がつかないニャ。 なんで今更になって、アインに憑りつくのかがわからないニャ。 お前何モノニャ」 「普通の男の子だろ」 アインについて説明するならば、ドライアドとのハーフで毒素分解EXという力で魔石を吸収できる。 そして転生した人間だということ。 このことを考えると決して普通の男のことは言えなかった。 アインとしても自分が転生したと言うことを、たまに忘れてしまうほどにはこの世界に馴染んでいた。 「マザコ」 「また耳引っ張るぞ」 「……まあいいニャ。 一つ教えるニャアイン、吸収については"完全"に制御できるニャ?」 「もうできると言っていいと思う。 少なくとも、魔石を手に取ったからって無意識に吸い出すようなことは無いよ」 「まだ無意識に吸ってたら、マジョリカの店吸い放題ニャ」 若干危ないことを口走ってしまったが、アインは既に吸収を制御することに問題なかった。 「それはしないけど。 嫌いな人がいろいろ持ってたら吸っちゃってもいいかもね」 「アインはひどい奴ニャ」 「それで、制御できてると何かあるの?」 「……持ってみるニャ?」 「それってまさか」 カティマが 指 ( 肉球 )をさしたのは、例の魔石。 手に取ってみることで何かわかるかもしれないと彼女は予想していた。 「さすがに危険なんじゃ」 「吸わないなら、魔石とのリンクは構築されないはずニャ。 どうせ昔は無意識に遠距離だろうと吸い上げてたニャ。 だから今なら平気だと思うニャ」 たしかにアインは、吸収を制御できなかったときは身近の魔石を無意識に吸い上げていた。 今ではそれを制御し、基本的には腕から吸い上げているため問題がないだろうとカティマは仮説を立てていた。 「仮に何か問題が起きた時の対処は?」 「この部屋ごと封印をかけるニャ。 それでとりあえず外への影響は抑えられるから、そこから少しずつ魔石を破壊するなりなんなり考えるのが一番ニャ」 「……本当にいいんだな?」 対処法もあり、特別危険な事にはならないだろうと考えたため。 アインもその謎の魔石を手に取る決心をした。 「いいニャ。 魔石の研究なんて、多少の危険はつきものニャ」 「わかったよ。 じゃあ何が起きるかわからないから、警戒だけはしといてよ」 そして魔石の隣に両手を構える。 「いくよ?」 「こっちも準備いいニャ。 さぁやるニャ!」 その声を合図に、アインは例の魔石を手に取った。 なんだなんにもないなと思っていたのも束の間。 今度はアインにだけ聞こえる声で無く、部屋中に響く音で声が鳴る。 『見つけた……見つけた……見つけた……見つけた!』 「ニャッ!?なんニャこれっ!?」 その見つけたと言う声は鳴りやない。 「アイン!もとに戻すニャ!箱にいれるニャ!!」 「わ、わかったっ!」 危険と判断し、魔石を再度箱に戻せと言うカティマ。 そこで予想しなかったことがアインの体に起きた。 「えっ……な、なんで?なんで幻想の手がっ」 アインの背中から幻想の手が2本、3本……4本とどんどん数を増やして出現していく。 その腕達は魔石に向かい伸びていく。 「何をしているニャ!アイン!」 「俺じゃない!勝手に出てきて……ッ!なんだよこれ!?」 突然のことに何が何だかわからないアイン。 箱に戻そうとしても手から魔石も離れない。 「ニャッ……戻るニャアアアアア!」 その異様な状況にカティマが動く。 アインの背中にタックルし、アインの手を強引に箱の中に戻した。 そして何とか力を込めて箱からアインの手を引っこ抜き、箱を閉める。 すると何本も出ていた幻想の手は徐々にアインの体に戻っていった。 「はぁ……はぁ……いったいなんなのニャあれは」 「カティマさん。 体すっげぇだるい……」 「あんだけ幻想の手が出てくれば当然ニャ。 なんなのニャ本当に……ってアイン!?」 「なんだよ。 まだなにか」 「体!見てみるニャ!」 カティマがそうアインに焦って伝える。 カティマがこうまで焦った姿は見たことがなかったアインも、急いで鏡の前に移動する。 アインが移動している最中に、カティマは本棚に向かった。 「っなんだよ、これ……」 アインは普段着で研究室に入った。 そのはずだった。 だが今着ているのは黒い甲冑。 小さなアインの体に合った大きさの甲冑をしていた。 漏れ出すオーラは黒。 赤いような青いようなオーラが入り混じっている。 これではまるで、その鎧はデュラハンそのもので。 「あったニャ!アインこれを見るニャ!」 カティマが持ち出したのは一冊の古い本。 そこに書かれていたのは一つの絵で、アインが今装着している黒い鎧だった。 そしてそのページはとある魔物について説明されている。 「デュラハン……」 持ってこられた本は古い魔物を纏めた貴重な資料で、カティマが開いたページはデュラハンについての情報。 幻想の手についての挿絵がそばに載っており、隣にいるデュラハンは黒い甲冑を身にまとっていた。 そのデザインはアインがいま纏っているものと瓜二つ。 「アイン。 正直に言うニャ。 ……少し吸ったニャ?」 「吸ってない!急に幻想の手が出てきたと思ったらあんな感じになったんだぞっ!?」 そうしてカティマは考え込む。 今起きたことに関して、頭の中では様々な仮説や計算が蠢いていた。 「まずこれを吸うニャ。 ヒールバードの魔石ニャ。 ヒールバードは特別な魔石で、人間に毒性はなくてその力はそのまま治療に使われるニャ。 アインが吸っても同じ効果になるはず」 そうしてカティマはヒールバードの魔石を3つアインに手渡した。 尋常じゃなく疲れていたアインは、それを一気に吸い上げた。 味を感じる余裕なんてなかったが、ミントのようなスーッとした香りがアインの体を通っていく。 その香りと清涼感も疲れを癒してくれているように感じ、吸い終わる頃にはアインも少しの落ち着きを取り戻した。 「ありがとカティマさん。 ちょっと落ち着いたよ」 「それはよかったニャ。 ……鎧も消えたみたいだニャ」 どうやらアインが落ち着いたのと時を同じくして、デュラハンの鎧もその姿を消したようだ。 「参考までに聞くニャ。 幻想の手以外の暗黒騎士のスキルは練習したりなんかは」 「してない。 というかどんなスキルがあるのかすら全くわかってなかったんだからな」 「正直装備のどこまでが魔法で、どこからが本物なのかなんてデュラハンに関しては全く分かってなかったニャ。 だからアインが練習してたら怖かったニャ」 「じゃあなんで聞いた……」 その強さは有名なデュラハンだったが、暗黒騎士というスキルについての詳しいことは今だ解明されていない。 実際、今発見された鎧に関することすら歴史的な発見と言えた。 「意味が分からないことだらけニャ」 「でも声が聞こえるってことは、カティマさんもわかったんだよね?」 「そうニャ。 それだけでも発見だけど、でも……ううむ」 「なんで暗黒騎士の幻想の手が、あの魔石を求めたと思う?」 「仮説があるニャ」 幻想の手が勝手に発動し、魔石を求めたこと。 魔石本体に関してもわからないことだらけだが、デュラハンの鎧まで出現し、その魔石を求めた理由がわからなかった。 「でもまるっきり現実味がない話ニャ。 1つ目が暗黒騎士がこの魔石を求めたこと、自分の成長に関係していると感じて求めたのかもしれないニャ。 2つ目が……これはもっとおかしな話ニャ。 暗黒騎士が、デュラハンが何か"縁"のある魔物の魔石だったのかもしれないニャ」 「つまり、俺の吸ったデュラハンの魔石。 それの元の持ち主がこの魔石、あるいはこの魔石を持っていた魔物と何か関係があったって?」 「そういう事ニャ。 もう魔石が呪いをかけることとか、今あったことを考えるとこんなことがあっても不思議じゃないニャ」 正直に言うと、カティマとしても現実味がない仮説しか例に挙げることはできなかった。 研究に明け暮れた生活をしてきた彼女でも、この魔石に関わることは全てが謎に満ちているのだ。 二人としても、その仮定についての話を続けてみるものの、全くと言っていいほど話は進まない。 結局少ししてから今日の研究はお開きとなり、アインもカティマも研究室を後にする。 * 魔石の騒動から少し経った日。 アインは久しぶりの遠出をしていた。 向かう先はイシュタリカ初日に訪れた、イシュタリカで最も大きな港町。 アインが向かうということで、通常であれば王家専用水列車が発車するのだが、あまり大々的にするべきことではなかったため、貴族向けの車両がある水列車で向かっている。 向かうメンバーは、アインが乗った車両にはアインとクリスの二人。 一つ前の車両にはウォーレンをはじめとした文官たちが数人に、護衛の騎士達が乗っている。 港町に到着する船に向かっていた。 およそ3時間と少しの時間をかけて到着する港町。 そこに到着する予定の船には、エウロから持ち帰ってきた多くの海結晶が載せられている。 ウォーレンがその海結晶の状態を視察に出かけるのだ。 アインが付いてきている理由は、シルヴァードが良い経験になると考えオリビアに打診した結果だ。 オリビアが付いてきていない理由は、王妃ララルアの仕事を手伝っているため。 彼女としてもアインに着いて来たかったのだが、その役目はクリスに任せることにしていた。 「もうすぐ着きますよアイン様」 「久しぶりですね。 こんな遠くに来るのって」 「そうですね。 そういえばアイン様がオリビア様から離れて遠出するのは初めてでは?」 クリスにそう言われ、アインは確かにと納得した。 よく考えてみれば、今まで遠出は母のオリビアとしかしたことがなかった。 学園へと入試に出向いたことはあるが、あくまでも同じ王都内での移動だったため遠出とは言えないだろう。 「そう考えるとお母様のことが心配になってきました。 どうしましょう……」 「オリビア様は逆のことをお考えですよきっと」 「否定できない」 「アイン様は近い将来、多くの視察や公務をすることになります。 今回の視察も良い経験になりますよ」 そうクリスが口にする通り、アインとしても有難く思っていた。 現状のアインはただ養われているだけだったため、将来の事や今自分にできることを考えると、いくらでも手を付けておきたかった。 「感謝してますよお爺様には。 ただ会うたびに最近小言を言われますが」 入試でやらかした件だ。 オリビアも約束したことを破ったらだめでしょ?と口にしていたものの、シルヴァードからしてみればあまりにも甘い言い方だった。 オリビアがアインへと強く言えないのは分かり切っていたため、シルヴァードも普段は甘い態度だったが、その時ばかりはといけないことだと強く叱りつけた。 1つ、使ってはダメだと言われたスキルを使ったこと。 2つ、きちんとどのような結果になるかを学んでから技を使うこと。 それ以来、ちょくちょくシルヴァードからその事を言われていた。 「まだ公にはできることではありませんからね」 だが一つアインにとって良いこともあった。 それがきっかけになり、幻想の手を使った訓練が始まっていた。 相手は通常の騎士は不可能だったため、もっぱらロイドが務めている。 「ロイドさんが相手務めてくれるのはありがたいんだけど、あの人硬すぎると思うんですよクリスさん」 「あ、あはは……」 例の試験官を相手にしたとき、その試験官の骨まで折る攻撃をしてしまったアインだが。 ロイドにはそれほどまでのダメージは与えられなかった。 試験の時と同じぐらいの魔力を込めて使ってみるものの、鎧をまとった片腕でガードされてしまう。 そしてそのあと吹き飛ぶことも体制を崩すことも無かった。 「確かさ、幻想の手の訓練って安全に使うためにっていう名目だったはずなんですよ。 危険性を理解するためにも必要って。 ロイドさんに使ってると違うんですけどあれ、全然危険に見えないから若干趣旨が変わってるというか……」 幻想の手の強さをしっかりと覚え、使いどころや力加減を理解するための訓練だったはずだ。 だがロイドに使っても全く危険に見えないのだ。 むしろ食らってもはい次!と言って次発を急かすあたりもう全く危なそうに見えない。 「……今度、その件はロイド様にお伝えしておきますね」 「お願いします」 頭を抱えるクリス。 使い方に関して言えば、アインは大分上達しただろう。 細かく動かすことにも慣れてきている。 だが問題であったはずの、危険性についての理解を深めることはできていない。 「最近のロイド様は、更に出力を出させようとしてる節が若干見受けられますので」 「ダメじゃんそれ」 すでに強化訓練を始めようとしてるロイドに、アインは別の訓練に関しても検討をせざるを得なかった。 そしてロイドという、大国イシュタリカの元帥の強さをよく理解できた。 そうこう話しているうちに港へと着いたようで、クリスがアインへと降りましょうかと提案した。 そしてアインがそれに頷き港町へと降り立つ。 * 「こんなに広かったんですね」 水列車から降りたアインが見たのは、広大に広がる港町の風景。 アインが下りた駅は、大型船が止まる場所に近い小高い場所にある駅。 前にアインがここに来たときは、ドアからドアを移動するような形でプリンセスオリビアから王家専用列車に乗り移ったため、町の風景を見ることは無かった。 「前回は見ることができませんでしたからね。 ここがイシュタリカ最大の港町マグナです」 軍港も兼ねていますが、とクリスが続けて説明した。 広く賑やかなこの町は、多くの家が赤い屋根に白い壁の家が特徴的。 ところどころ水路があり、小さな船をこいで何かを運んでいる姿が見える。 海のそばでは数多くの船が止まっており、同じく数えきれない人たちが仕事をしていた。 軽い食事ができる出店も多く出店しており、見て回るだけでも楽しそうな町だった。 「すごい賑やかで、美しい町ですね」 「ここで購入できる海鮮の味は絶品ですよ。 帰りに少し購入していきますので、オリビア様へもお土産に致しましょう。 オリビア様はマグナで売られている魚が大好物ですから」 「それはいけませんね。 大量に購入していくことにしましょう」 アインの返事を聞いて苦笑いしたクリスは、船が停泊する場所を指し案内を始める。 「少し前に到着したようですね。 手続きをしているようです」 その先には港の従業員と思われる制服を着た男と、船から降りた文官と騎士が話をしていた。 同じく列車を降りたウォーレンが近くにやってくる。 「アイン様、長旅お疲れ様でございました。 どうですかここマグナは」 「綺麗でにぎやかな町ですね。 しばらく過ごしてみたいほど魅力的ですよ」 「はっはっは。 それは何よりです。 それでは参りましょう。 海結晶やいくつかの機材についてご説明致します」 そうしてアインはウォーレンに着いて下ろされた貨物の近くに歩いていく。 どうやらひと箱分、ウォーレンが視察に来ると言うことで早めに降ろしたようだ。 「そこの。 もう所定の作業は終えたのか?」 「はっ。 ウォーレン様がご確認される分に関して、優先して殺菌などの作業を終了させております!」 「ご苦労。 ここは私たちが引き継ぐ、次の仕事に移りなさい」 「はっ!」 ウォーレンが貨物に関して確認することがあったようで、そばにいた騎士にそれを訪ねた。 問題がなかったようなので騎士を移動させる。 アインのことを考えての措置だった。 「クリス殿、開封してもらってもよいかな?」 「承知しました」 クリスはそうして溶接された蓋を開封する。 なにやら魔法を使ったようで、風が吹いたと思ったらすでに切れ目があった。 「ありがとうございます。 ではご覧くださいアイン様、これが採掘され特に何も手を付けられていない海結晶です」 アインの目の前に取り出されたのは。 岩塩のような塊。 白く透けている塊だった。 手触りは普通の石のように感じられ、少し表面はザラザラしている。 「これが海結晶。 ザラザラしているのですね」 「海中でいくつもの傷をつけてしまいますからザラザラしてしまいますな。 これに魔法を記憶させ、魔石を制御するのです」 「そうすると、人体への影響がなくなるんですよね?」 「そうです。 この海結晶を削り、伝導力を高め加工されたものが魔道具の一部になるのです」 アインが手に持っている海結晶は大きさ20cm程のものだった。 それでも重さは全く感じず、乾いた骨のように感じた。 「一つお持ちください。 どういったものなのか列車の中でも手で触れてみて頂ければと思います」 ウォーレンにそう言われ、クリスはアインから海結晶を預かった。 「では次に参りましょう。 採掘に使う魔道具をいくつかご紹介します」 アインの視察は続く。 この後は、いくつかの採掘に使う魔道具や港町にある海結晶の加工機、海結晶の調査団の活動についての説明などが続いた。 * 「これにて以上ですな。 長時間お疲れさまでした」 ウォーレンの案内によって始まったアインの視察が終了した。 多くの説明を受けたが、アインはどれも真面目にその説明を聞いた。 一番興味を抱いたのは、海結晶の加工機。 表面を削ると聞いていた。 カッターのようなものがいくつもあるのかと思っていたが、薬剤をかけて表面を溶かしてから、ウォーターカッターのようなもので削り取っていた。 「とても興味深いことばかりでした。 ありがとうございますウォーレンさん」 「それは何よりでした。 それでは視察は以上となりますが」 「お母様へのお土産でも見に行こうかと」 「それはよいですね。 クリス殿お付きを……っと、そうでした、クリス殿も確認すべき書類等いくつかありましたね」 視察が終わったと聞いたので、アインとしては少し港町を見に行きたいと思っていた。 だがクリスにはまだ仕事が残っていたようなので、それをしばらく待つことにした。 「じゃあクリスさんの終わるまで待ってますね」 「それなりにお待たせしてしまうかと思われます。 なので別の騎士を何名かつけてもよいのですが」 ウォーレンが代替案を出してくれるが、アインとしてはあまり歓迎する案ではなかった。 口にはしないが、あまり話したことがない騎士達と港町に出ても緊張してしまいそうだったのだ。 「いえ、ならこの桟橋のとこで待ってますね。 海を眺めてたいので、いいですか?」 アインはクリスを待っている間、いくつかある桟橋のとこから海を眺めていることにした。 マグナの海は透き通っていて綺麗で、中を泳ぐ魚の姿もよく見えた。 「さすがにお一人では危ないかと」 「クリス殿。 少しアイン様も息抜きをされてもよいでしょう。 ただしアイン様、ここからそばの桟橋以外に移動はなさらないでくださいね?我々から見える場所に居てください。 クリス殿であれば、万が一アイン様が海に落ちることがあろうとも音は聞こえます」 「たしかにこのエリアは騎士団や調査団の者しかいませんが……それでも絶対に安全とは」 クリスが渋る。 王太子を近くとはいえ、一人にするのは彼女にとっても許されないことだった。 「ではアイン様。 これをどうぞ」 ウォーレンは一つの小さな紅い宝石を手渡した。 アインは一緒に細いチェーンも受け取る。 「これは貴重な魔道具です。 小さいですが、これを持っている者を守ってくれます。 悪意のあるものを寄せ付けず、危険な事があれば強く光ります。 本日アイン様が港町に出るときに渡してくれと王妃様より賜っておりました」 「大地の紅玉……確かにそれがあるなら、桟橋にいるだけならば許可致します」 「なんですか?この大地の紅玉って」 「とても貴重な魔道具です。 強力なドラゴンの核を凝縮し、それを海結晶に埋め込んだものになります」 クリスは説明を続ける。 悪意のある者が近くによればその紅玉は輝き、その悪意ある者を包み込み身動きができないようにしてしまう。 そして遠距離から魔法を打たれても、数発程度ならばそれを解除することができる、貴重な魔道具だった。 「すごい高そうなんですが」 「アイン様は王太子なのですからこれぐらいは当然です。 これは作るのに長い時間もかかるため、量産はできません。 先日出来上がったものを、ようやく今日アイン様にお渡しできると言うことです」 「わかりました。 なら受け取りますね」 「腕に装着してください。 装着していなければ効果が発揮されませんから」 クリスにそう言われ、チェーンを使って腕に装着した。 最初から腕につける予定だったようで、留め具もついていたため簡単に身につけられた。 「ではアイン様。 くれぐれもこの傍の桟橋より遠くには行かないようにしてくださいね」 「わかりました。 それじゃ終わったら迎えに来てくださいね」 そうしてアインは桟橋へと向かった。 透明感にあふれる海を近くで見られることにアインは喜んだ。 * 「すっごい透明だ。 底まで見える」 アインは早速桟橋に行きしばらくの間海を見ていた。 港町ラウンドハートと違い、澄んでいて海の中の様子が分かるマグナの港は、泳ぐ魚までよく見えて楽しかった。 「手づかみで魚取れそうだな。 暖かくて気持ちいいし、ちょっと眠くなってきた」 アインが頭に思い浮かべたのは昼寝。 王族としてこんな場所で昼寝なんて許されるわけがない。 とはいえアインの顔はまだ国民に知られていない。 それを考えたアインは、やるなら今が最後のチャンスでは?と考え、もういいややっちゃえと横になる。 日に照らされた桟橋は暖かく、海の風が吹いて心地よかった。 桟橋にはいくつかの木箱が置かれていて、その陰に居れば周りからもあまり見えないだろうと考え、昼寝を決行する。 「はぁ……気持ちいいなここ」 段々と冷えてきたとはいえ、天気が良い港町マグナはそれなりの陽気に包まれていた。 そのため風邪を引くような寒さは一切なく、過ごしやすい気温をしていた。 クリスのほうを見ると目が合い、額に手をあててため息をついているようだった。 だが咎めに来ない当たり許してくれるようだ。 それをきっかけに、目を瞑ってこの陽気を楽しむことにした。 * アインが昼寝を初めて少しの時間が経った。 クリスはまだ書類の確認や、いくつかの作業が残っているようでまだアインを迎えに来ていない。 彼もこの陽気に包まれた昼寝が心地よく、今だ目を覚ましていなかったため問題はなかった。 彼が"一人"で寝ている間、近くを歩く人間は気が付く人はいなかった。 アインはまだ大きな体でなかったこともあり、目立つことは無かった。 また港町マグナの大型船の仕事をする者たちは、目的地である船以外に目を向けることが少なかった。 あくまでもそれは、一人で寝ている時の話だったが。 「ん……うぅん」 そうしてアインが、昼寝を満喫した後に段々と意識を覚醒させていく。 心地よい陽気に包まれた昼寝を終え、彼は随分と満足した気分だったが頭に何か違いを感じた。 木箱に寄り添うように寝ていたから、頭にあたる感触は硬いはずだった。 なのに彼が感じたのは柔らかく、花の良い香りがしていた。 それを不思議に思ったアインは、なんだろうかと状況を確認するため起きることにする。 ゆっくりと目を開き、何が起きているのかを確認する。 太陽の光が眩しいが、それでも自分に起きている何かを理解することができた。 「ねぇアイン?貴方が最初に口にする台詞は何かしら。 久しぶり?それとも膝を貸してくれてありがとう?」 膝を貸していた彼女はこう口にする。 小さく悪戯をする様にアインに問いかける。 少し大人になった彼女、前よりも美しくなった彼女。 懐かしい綺麗な声がアインの耳を奪う。 少しいらずらっぽく微笑みながらアインを見て、アインが最初になんて口にするのかを聞いてきた。 長く美しいライトブルーの髪をかき分ける手には、花の形をした宝石が輝いている。 「……会いたかったよ。 っていうのはダメかな?」 まだ小さな子供のアインだが、彼にとっての一生懸命の言葉。 彼女は顔をほんのちょっとだけ赤くして、アインの頬を撫でる。 美しく成長した彼女へのアインからの言葉。 彼女がした小さな小さな悪戯に対する、アインの小さな小さなお返しだった。

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遅れてきたハロウィンSS|俺2号/結城 涼の活動報告

魔石グルメ カティマ

セレスを伴い、あるいはセレスに促されて姿を消した。 勿論、お披露目前とはいえそれなりの調査団が組まれたけれど、数日が経っても進展はない。 「お兄様。 どうして姿を消してしまったのですか?」 私は胸が引き裂かれるような思いを抱いた。 まだ早すぎる……お母様がお父様に泣いて訴えかけたが、お父様は苦しそうな顔で俯くばかりだった。 オリビアも悲しそうで、クリスも責任を取ろうと自害しかけたりと騒動がつづく。 ……この空気は、誰かが変えなければならないのだと思う。 趣味でもある研究をしていた時、偶然にも、薬剤の組み合わせを誤って爆発させてしまう。 皆に心配をかけてしまった、こんな時期に私は何をしているんだろう? 反省していたが、お父様やマーサは笑ってくれた。 どうやら、私が無傷だったから安心したのと、頬に付いた煤模様がおかしかったらしい。 ……少しだけ、少しだけ何かが分かったような気がする。 だけど、皆の顔つきが暗いのに変わりはない。 研究を手伝ってくれたクリスはぼーっとしていたんだと思う。 中庭で実験中、彼女は私が持ってきた染料をこぼしてしまい、器用にも頭からそれを被った。 彼女は何をしているんだろう? ふと、私は自然と笑い声をあげてしまった。 すると、私の笑い声に釣られてやってきた、オリビアとマーサの二人も合わせて笑い出す。 ……みんなで顔を合わせて笑ったのはいつぶりだろうか。 私はどうしたらいいのかと、書庫の本に頼る始末。 だけど、やっぱり皆を笑わせられるような研究なんてなくて、何度ため息をついたのかわからないぐらいだ。 当然、ここにちょうどいい答えが埋まってるなんて思ってなかった。 だけど、私は発見した。 「なに……この本……?」本の表題は『ある道化師の一生』。 どうせありふれた昔ばなしだ。 そう思っていた私はこの日の夜、朝日が昇るまでこの本に没頭したのだった。 だが、彼は多くの人々を笑わせる達人で、どんなに暗い場所でも照らして見せた。 いや、彼こそが城に必要な存在に違いない。 本を読み終えてから、私は目から鱗が落ちるような想いを抱き、窓を開けて朝日を眺めていると、何かが変わるような気がした。 どうしよう、私はこんな道化なんてしたことがない。 先祖返りのケットシーだ。 ケットシーが何をすれば面白いのか、誰か私に教えてくれないだろうか。 おかげで研究に没頭することもできない。 どうすれば、何をすれば最善なのか教えてほしい。 私は研究者……の卵だ。 はぁ……こんなことになるのなら、私は喜劇の鑑賞に励んでおくべきだったのかもしれない。 彼女は相変わらず気の抜けたところが多く、まさにポンコツという言葉が似あう可愛らしい女性だと思う。 ……失敗で賑やかになった。 賑やかになった……そうだ、私もそうすればいいんだ。 久しぶりに『ある道化師の一生』に目を通し、私はマーサにこう言った。 彼女は私の口調に驚いていたが、慌てて承諾して発注しに行ったのだ。 うん、着心地はすごくいい。 でも少し地味かもしれない。 折角だから少し宝飾品を付けてみたところ、個性が出てきたようで嬉しかった。 何度か深呼吸して、私は大きな声でクリスを呼んだのだ。 「クリスッ! 今日も研究するから手伝うのニャッ!」……と。 でも、意外と自分でも気に入ってることに驚いた。 周囲の人たちも慣れてきたようで、城の騎士がいつもより気軽に語り掛けてくれるようになった。 当然、失敗は多く騒ぎになることが多い。 一番辛いのは、私のお小遣いがその分減ってしまうということ……あぁ、お気に入りのおやつが少なくなってきた。 むしろ、周囲の人間を巻き込むように実験した。 ある程度、皆が不快にならない程度にかき回すようにして、手伝ってくれた者には強く礼を言う。 だが、マーサの体力はどうなっているんだろう? 残念なことにすぐ捕まってしまうことが多く、近頃では、逃げ道を確保してから騒ぐようにしている。 私は隠れることなく、マーサから逃げきることに成功したのだ。 良く分からない達成感は、第一王女が抱いていいものか分からない……けど、どうしてだろう? またやってますね、と声を掛けられる度に見た使用人たちの顔が、自然な笑みだったことが凄く嬉しかった。 お父様が私をしかりつけるために追ってくることもあったが、お母様は私を応援することもある。 うん、私は目的を達成しかけているのだろう。 この日の夜、私は入浴しながら涙を流した。 私もこの新しい振る舞いが演技ではなく、半分以上が自然なものとなってきたというのに、急にこの話だ。 だが、王族として、そうした義務と必要があるのは分かっている。 ……理性が伴うかが別というだけの話だから。 私からすれば甥にあたるアインに対する当りがひどく、心が痛むという内容だ。 お父様が船を出そうとした。 珍しくお母様も止める気配がなく、ロイドやウォーレン……多くの騎士が必死になって説得していた。 お父様は今日も不機嫌になろのだろうか? 私が今日は何をして騒ごうかと考えていた所で耳にした。 何やら陛下は上機嫌ですよ、とのこと。 聞けば、アインがスキル『修練の賜物』を得たと言い、努力家な孫に顔を緩ませていたという。 密約という事情があるが、もしも離縁して帰国でもした際には、彼が王太子となってくれるだろう……と、私は密かに期待した。 執事室がどうにも賑やかで、私は何か問題でもあったのかと扉を開けた。 「こんな時間に何してるのニャー?」 すると、執事たちは慌てて何かを隠したのを見てしまう。 さて、何を隠したのだろう……そうしていると、部屋の中にクリスが居ることに気が付いた。 強引に問い詰めると、オリビアを迎えに行くという。 私は察した、遂にあの子の我慢が限界を迎えたのだろうと。 私は部屋を出てすれ違った近衛騎士に命令する。 やはり、オリビアは一人の男の子を連れて来たとのことだった。 私は小さくほくそ笑むと、城の中が昔のように賑やかになることに期待した。 叡智がないのは当然として、いわゆる知性がある生物としての進化がない。 手放してはならない者を手放したこと。 私たちイシュタリカにとって最善の選択肢をしてもらったといえる。 アインはまだ固い様子が見受けられるものの、オリビアに似て頭がいい。 きっと、昔のようにみんなが幸せに暮らせるはずなのニャ。 もしかすると無自覚なのかもしれないが、傍から見れば一目瞭然。 知的好奇心が強く刺激され、今日はオズという著名な研究者とも話ができた。 ただ、アインの今後について気になる話が出てきてしまったが、赤狐の件は少しずつ進みそうで何よりだった。 彼は私と居ても疎ましくせず、楽しんでくれてるようで私も嬉しいニャ。 といっても、相手が悪いのは当然で、ウォーレンは粛清できると喜んでいたのが印象的。 クローネが他の受験者が追い付けない成績を残し、アインの傍仕え……補佐官の地位を得たのは当然のことだと思う。 あのポンコツエルフは、このままでは置いてけぼりを食らうばかりな気がしてきたニャ。 しかし、クローネという女はとんでもない女だニャ。 王太子の嫁になるのに、あの子以上の女はきっといないニャ。 当たり前だ、私の魔石食もあるし、海の王がクラーケンに負けるはずがない。 だけど、クラーケンの魔石と肉を栄養にして帰ってくるのは悪くない気がするニャ。 だけど、急に大きくなって帰った甥に対し、適切な態度をとるだけの知識は持っていなかったニャ。 クローネとクリスの二人がうっとりしてたのは分かる。 だけどオリビア? 貴女が我慢しなきゃ……って走り去るのは、姉として苦笑いしか浮かべられませんでしたからね。 それも、余力を残したままの圧倒的な勝利。 身体が大きくなったことと関係があるのだろうが、何があったのか、それをディルに尋ねても答えてくれないのニャ。 あくまでも仮説だニャ。 魔王城にいるリビングアーマーはロイドより強いと聞くニャ。 お父様が口封じをした理由も分かる気がするニャ。 明日、ディルと買い物に行った際にもう一度尋ねてみようと思うニャ。 でも、貰ったおやつは美味しかったニャ。 物理的にもそうニャけど、主に精神的な距離の意味で。 食事は部屋でとってるみたいニャけど、運んだマーサによると、なに一つ覇気がなかったとのこと。 当然ロイドが勝ったニャけど、終わってから聞いたら、今日は下手したら負けてた……ってロイドが言ってたのニャ。 何か決めたらしく、いつもの調子に戻ったのが逆に怖いのニャ。 先はまだまだ長いのニャ。 クリスが髪を下ろして、いつもより美人になってたのニャ。 紆余曲折あってロイドが騎士に復帰。 クリスが元帥を罷免されて、アインの専属護衛になる……ニャ? 茶番かニャ? まったく、男どもは名目が無いと動けない、面倒な生き物だニャ。 瘴気が元になって出来た魔石なんて、聞いたことがないニャ。 期待通り、目的の棚が全壊して、収めていたいくつかの魔石やら標本が壊れたニャ。 そしてお母様、お察しいただけますと、カティマは嬉しく思います。 私の日記を読まれたということは、私がオズの言葉を聞いて行った 行動が失敗したということでしょう。 多くの言葉を語るのは無粋。 どうか我が身が彼を負うことをお許しください。 私の寝室に、これまでまとめてた資料を用意してあります。 机の上に、纏めて置いてありますので目を通していただけますと幸いです。 これで私はお兄様に文句を言えなくなりましたね。 日記に長々と書き記すのは無礼ですので、机の上の手紙をご覧ください。 皆に対してのものを一通ずつ用意しております。 あんなの王子様だニャ。 困ったニャ……困ったニャ……。

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